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最高裁判所第二小法廷 昭和42年(オ)555号 判決 1968年6月21日

上告人

早川ヨシ

代理人

岸田昌洋

被上告人

渡部孫三郎

ほか一名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岸田昌洋の上告理由第一点について。

私文書の作成名義人の印影が右名義人の印章によつて顕出されたことが認められたときは、反証のないかぎり、右印影は、右名義人の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、右私文書は、民訴法三二六条によつて真正に成立したものと推定するのを相当とする。これを本件についてみるに、成立に争のない甲第一号証の四(印鑑証明書)中の上告人の印影と同号証の三(委任状)中の上告人の印影とが同一であることは、両書証を対比すれば明白であるから、右同号証の三中の印影は、上告人の印章によつて顕出されたものと認められ、従つて、反証のないかぎり、右同号証の三中の印影は、上告人の意思に基づいて顕出されたものと推定されるところ、原審は右推定に反する第一、二審における上告人本人の供述部分は措信しないのであるから、右同号証の三は、真正に成立したものと推定されるべきである。されば、原判決が甲第一号証の四の上告人の印鑑と対照して同号証の三が真正に成立したものと判示したのは、首肯するに足りる。従つて、右判示には所論の違法はない。

同第二点について。

原判決の趣旨とするところは、上告人は昭和三七年三月三一日以前に訴外早川正則に対し本件建物の売買契約についての代理権を授与し、右訴外人は、右授権に基づいて、上告人の代理人として、同日、訴外岩川照夫との間に本件建物の売買契約を締結した、というにあり、右事実認定は、これに対応する挙示の証拠によつて肯認することができる。また、所論の上告人本人尋問の結果は、原判決の判示から明らかなように原審の措信しないところである。所論は、原審の適法にした事実認定及び証拠の取捨、判断を非難するものであつて、採るを得ない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)

上告代理人の上告理由

第一点 原判決には経験則違背もしくは理由不備の違法がある。

原判決は、甲第一号証の三の成立を認めるにつき、成立に争いのない甲第一号証の四のみをその根拠としている。しかし、甲第一号証の四によつて認められるのは、甲第一号証の三の印鑑が控訴人本人のものであるという事実のみである。

しかるに原判決は甲第一号証の三の成立の真正までも認定している。

右認定は論理の飛躍であり、経験則に違背すること明白である。

仮りに右主張があたらないとしても、甲第一号証の三の成立の真正を甲第一号証の四により認定しようとする場合には、民事訴訟法第三二六条の規定によらねばならず、且つ、右規定の適用に際しては、規定による推定を覆えすに足る反証が存在するか否かについても判断されなければならないのにもかかわらず、原判決が右の点につき何ら説示していないのは理由不備の違法があるといわねばならない。            <後略>

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